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周囲の目がある手前、私との関係を公言してない稜さんには返す刀がないのだ。全部わかった上で堂々とそれを逆手に取る宇野さんの大人げなさにため息が漏れた。
そんなふたりの攻防を他のメンバー達は慣れたように傍観している。この光景がひと月前までは当たり前だったことを思うと、何だか少し感傷的な気分になった。
「最近の和泉まじでからかい甲斐あるわー」
「大人げないですよ」
「見た?あの顔」
クソウケる、と高らかに笑っている。
気持ちいい皐月の空の下で煙草を上機嫌に燻らせている宇野さんは、なんだかんだ言いつつ稜さんの帰国を喜んでいる様子だ。
「まあ順調そうで良かったじゃん?」
「ありがとうございます」
「是非とも末永く俺にアイツをからかう機会を与え続けてくれ給え」
「本当に嫌な性格してますね」
「とか言ってこんな俺が好きなくせにー」
「そんなことより重いです」
いつも通りテラスでお弁当を広げていた私の頭の上に肘を乗せて、覆い被さるように体重を掛けてくる宇野さんに苦情を言う。
「てかその和泉は何してんの?」
「部長のところに呼ばれて行ったきりですね」
「アイツも休暇明けまでゆっくりすりゃあいいのにまじで社畜極めてんな」
「結構向こうでも無理してるみたいですよ」
「和泉の性格なら想定の範疇だろ」
「そうなんですけど…」
そうは言っても心配だ。
稜さんは、このひと月ばかりの間に少し痩せた。
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