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「あーあ、泣きすぎて顔ぐちゃぐちゃ」
女の泣き顔が好きだという男が愉快気に嘯く。
涙で滲んだ視界が揺れていた。
夜の静寂にまぎれた滑稽なセックスに散々泣かされた私は、彼の綺麗な背中に爪を立てて痕を残すことさえ許されない。
恋愛とはなんて不公平なものだろう?
ただ翻弄されるばかりで、抗うことも出来ない。
𓂃𓂃𓍯𓈒𓏸𓂂𓐍◌ 𓂅𓈒𓏸𓐍
目が覚めると煙草の匂いが鼻孔をくすぐった。
怠惰に瞼を持ち上げた先には、ベッドの淵に腰掛けて煙草を吸う裸の上半身が見える。私は起き上がって、微かな灯りの下で綺麗な稜線を描くその背中に頬を寄せた。
「あ、起きた?」
「煙草は体に毒ですよ」
「我慢のが精神衛生上良くないと思わねえ?」
「ああ言えばこう言う」
「目、腫れてる」
「誰のせいだと思ってます?」
行為の最中、散々泣かされた私はむっと恨みがましく余裕ぶった稜さんの顔を睨んだ。
けれど当の本人は少しもダメージを食らっていない様子で、私の顎を指先で掬うと、煙草臭い唇を斜め上から重ねてくる。
「…煙草臭い」
「もう慣れてきたんじゃねえの」
「煙草にも手酷く抱かれるのにも慣れません」
「怒ってんの、弥生ちゃん」
「もちろん」
なんて、嘘だけれど。
その証拠に、私の腕は稜さんのお腹の辺りに回され、後ろから抱きしめるような格好で骨張った肩に顔を埋めている。
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