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「…本当にいつか振っちゃいますからね」
「そん時は泣いて縋るわ、多分」
「嘘ばっかり、絶対そんなことしないでしょ」
「さあな?」
繊細そうな指先がするりと頬を掠めた。
けれどそれはすぐに私から離れて、後ろのサイドテーブルの上に置きっぱなしだった煙草の箱を掴み取る。
「でも普通に、弥生に振られたらきついけど」
咥え煙草に火を点けながら。
片手間みたいに、そんなこと言わないでよ。
ロマンチックな台詞なんて少しも彼の口からは出てこないというのに、どうしてこんなにも、心を掴んで離してはくれないのか。
「…嘘です、振ったりしません」
「なら良かった」
何故私の方が泣きそうになっているんだろう?
そんな私を紫煙の奥で笑う。
ベッドに降ろしたままだった腰を上げてまた稜さんの体に抱き着くと、当然のように受け入れてくれて、煙草の香りのする唇で目尻や頬にキスの雨を降らせた。
「自分で言って何勝手に落ち込んでんだ、馬鹿」
「…別れたくないなって」
「当然だろ、俺はそんな気更々ねえよ」
ぷかぷかと煙草の煙を吐いている稜さんは乱暴にぐしゃぐしゃと私の髪を撫でて「今朝はパンの気分だな」なんて嘯く。
そんな彼が愛おしくって仕方ない。
私が稜さんを振る日なんて、きっと一生来ない。
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