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「駅前にパン屋さんがあるの見かけましたよ」
「まじ?ならそこ買いに行こうぜ」
「了解です」
まだ長い煙草を名残惜しそうに灰皿に捨てた稜さんは、窓際のテーブルの上に転がっていた財布を引っ手繰る。
ホテルを出ると外は快晴。
青い空が都会の狭い視界に広がっている。
長袖のTシャツにスウェットパンツ姿のラフな稜さんは、それでも都会の景色によく馴染んだ。休暇中の浅草の街はどこもかしこも人の群れで溢れ返っている。
繁華街の中にあるホテルから駅前まで、人通りの多い雑踏をはぐれないようにと稜さんとふたり寄り添って歩くだけで、妙に楽しい。
「稜さんはパンなら何が好きですか?」
「…カレーパンだけど」
笑うなよ、と釘を刺してくるから。
私は我慢できなくて、盛大に声を立てて笑った。
「…何がそんなに面白いんだよ?」
「だって顔に似合わなくて」
「まあビーフストロガノフ顔だよな、俺」
「珍しくボケました?今」
「そうだわ、ちゃんと突っ込めよ」
恥ずかしいだろ、と文句を言っている。
そんなくだらない会話を交わす間に駅前のパン屋さんに辿り着いた。パンの焼ける香ばしい匂いは否応なく食欲をそそる。
「稜さんのカレーパンありますよ」
「お、美味そうだな」
「私は何にしよっかな、明太子フランスも美味しそうだけどベーコンエピも捨てがたい」
「お前固いのが好きなの?」
「特にこだわりなく何でも好きですよ」
「ふーん」
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