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しかも葉月の恋人はモスクワでロケット開発に関するベンチャー企業を立ち上げてまだ間もないという。そんな状態なら休みなんてまともに取れずに仕事に邁進しなければならないことは想像に容易い。
「ちょっと窶れてたよ、このひと月で」
「異国で起業でしょ?そんなの絶対大変だよね」
「仕事に掛けてる男の人の熱量ってたまにえげつないよね?私たちも結構バリバリ働いてるほうなはずなんだけど…」
「わかる、稜さんも目の下の隈すごかった…」
「弥生の彼氏さんも社畜だもんね」
「無茶しないで欲しい」
本当に、思うのはただそれだけだ。
稜さんに多少は狡賢いことだって覚えて欲しい。
すぐにひとりで何でもかんでも重責を背負い込んでしまうあの細い背中を、私はもう隣で支えることすら出来ないのだから。
「…思ってた十倍しんどい、遠距離」
お酒を飲み込むその隙間から思わずこぼれた本音に、葉月が苦笑した。その意志の強そうな瞳が心許なさげに揺れたのを見て、葉月も同じ気持ちでいることを悟る。
「…苦しい時に傍にいてあげられないもんね」
「ごめん、暗いこと言ったね…」
「暗い話もしようよ?こんな愚痴に共感してくれるの弥生しかいないもん」
「葉月、大好き」
「私も瞬さんより弥生のほうが好き」
悪戯っぽく笑った葉月は今日も大変麗しい。
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