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数時間前、浅草から赤坂方面に向かう稜さんの背中を見送った私の胸の底にどれほど醜い感情が渦巻いていたのかなんてこと、鈍感な彼が知る由もない。
どくりと嫌な音を立てて心臓が鳴る。
この醜い感情を、嫉妬と呼ぶことは知っていた。
𓂃𓂃𓍯𓈒𓏸𓂂𓐍◌ 𓂅𓈒𓏸𓐍
このあと同期ばかりで集まっているらしい飲み会に顔を出すという葉月と少し早めに別れて、私は電車に揺られてホテルまで戻った。
まだ稜さんの帰って来ていない部屋で、今朝一度寮の部屋に帰って運び出してきた荷物をほどいてゆく。稜さんが再びアメリカに渡るまであと一週間と少しだ。
それでなくても短い時間なんだから。
こんな馬鹿げた感情は、さっさと捨てなくちゃ。
「…早く帰って来ないかな」
稜さんが帰って来てまたいつも通りに抱き締めてくれたら、全部忘れられるのに。仰向けでベッドに転がって、ホテルの白い天井を見つめながらため息を吐いた。
カチカチと時を刻む秒針の音を聞きながら固く目を瞑った。瞼の裏側にお似合いのシルエットが浮かぶ。苦しくなるだけとわかっているのに、何故自傷行為のような思考は巡ることをやめてはくれないのだろう。
同期会ってことは、つまり。
今頃稜さんは有村さんと会ってるってことだ。
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