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彼の服に染みついたお酒と煙草の匂いの中に、別の香りがないかを無意識に探してしまう浅はかな私に、稜さんはきっと気付かない。
薄い壁越しに聞こえてくるシャワーの水音が妙に胸をざわつかせた。嫉妬って誰でもこんなに粘着質なんだろうか?自分がどうしようもない人間に思えて嫌になる。
「久しぶりにあんな酒飲んだ気するわ」
「同期みんな仲良いんですか?」
「どうなんだろうな?比較対象がねえからわかんないけど多分悪くはない気する」
「まあ総合職と開発職は全国転勤ですもんね」
「俺なんか今アメリカだしな」
寝支度を整えた稜さんがベッドの上で煙草を咥えている。私もその隣に寝転がりながら、そんな会話を連ねた。煙草で塞がっていない稜さんの左手が私の髪を掬っては落とす。
ヘッドライトの明かりだけが灯る部屋の中に稜さんの吐き出す煙がゆらゆらと漂う。幽霊のように頼りないそれをわけもなく目で追った。本当に聞きたい話は喉の奥につかえたまま音になることを躊躇っている。
「宇野さんも来てたんですか?」
「あのお祭り男が飲み会に来ないわけねえだろ」
「ふふ、それもそうですね」
「あちこち回って散々騒いでたわ、なまじ酒強いもんだから余計タチ悪い」
「でも若い頃宇野さんのこと潰したんでしょ?」
「あれはタイミング良かっただけ」
稜さんが飲み会に遅れて到着した時点で随分と深酒をしていた宇野さんに、最初から勝ち目なんてなかったのだと今さらな暴露をするので笑ってしまう。
真面目に見せて本当に性格の悪い。
それで野球拳まで追加するなんて、あんまりだ。
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