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「てかまじで有村から余計なこと聞きすぎ」
稜さんが最後の煙を吸い込む。
灰皿の上に擦り付けられた無残な吸い殻。
稜さんが飲み会の席でどんな風に過ごしていたのか探ろうと自分で誘導したくせに、実際に彼の口からその名前が出てきたら傷つくなんて、姑息な上に鬱陶しい。
「…弥生?」
稜さんが驚いて目を見開く。
きっと私が出し抜けに涙をこぼしたから。
どうして私はこんなに我慢が利かないの?稜さんの負担になりたいわけじゃないのに。ぽろぽろとこぼれ落ちる涙を乱暴に手の甲で拭って稜さんに背を向ける。
「ご、めなさ、これは、あの、違って」
「まだなんも言ってねえよ」
だけど体勢を変えようとした私の腕を掴んだ稜さんがそれを許さない。そのままぐっと腕を引っ張られ、一度逸らした顔をまた稜さんのほうに向けさせられた。
「なんかあったわけ、弥生」
「ち、ちがいます、わたしは何もなくて…」
「なんもないのに泣かねえだろ」
「これは、あの…」
舌の上で逡巡が転がる。
けれどその分だけ瞳からは涙が溢れてしまう。
嫌われたくないのに、重い女の烙印を捺されたくはないのに、どうして私は自分の心すら上手く制御できないのだろう?
「……あ、りむらさんと、稜さんが、会ってるの勝手に想像して、その」
馬鹿な嫉妬を拗らせたの。
自分がどんどん面倒な女になってしまう。
こんな重たい女は御免だと稜さんに捨てられてしまったらどうしようと恐ろしいのに、涙が止まる気配もなくて。
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