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「…お、まえビビらすなよ」
「う、うざい、ですよね、ごめんなさい」
「違ぇよバカ」
稜さんはどこか安堵の滲む息を吐きだす。
それから困った顔で笑った。
「俺がなんかして泣かせたのかと思った」
「りょ、稜さんは何も…」
「残念ながら、ってこともねえけど、有村は今日参加すらしてねえよ」
疑うなら宇野に聞けよ、と私を抱き寄せる。
それから頬を濡らす涙に口づけを落とす稜さんはくすくすと笑って、何故か機嫌よさげだ。意味がわからず首を傾げながら、その腕の拘束を受け入れた。
「弥生でも嫉妬とかすんだな?」
「…わ、たしも、最近初めて知りました」
「安心材料になんのかは知らねえけど、今アイツは随分高スペックな彼氏と海外旅行中の真っ最中らしいぜ?」
「え、あ、そうなんですか?」
「なんか他の同期の奴がそう言ってた」
「さすが有村さんですね…」
予想外の情報に少し狼狽えながらも、有村さんの可憐なお姿を思い返せばすぐに納得した。あんなに綺麗な人をいつまでも世の男性陣たちは放っておかないだろう。
だけど稜さんはそのことについてまるで興味なさそうな様子で、私の目元を指でなぞる。そして今度は瞼に唇を落としたかと思えば、ふわりと唇を攫っていった。
苦い煙草の香りに包まれる。
稜さんによく似合う、少しそっけない香り。
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