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「まあそんなの関係なしに、俺に弥生以外の余地はないわけだけど」
本当に狡い人ですね。
そうやって、時折欲しい言葉をくれる。
普段言葉足らずで甘さも足りないくせに、こんな時だけ優しくするから、どんどん深みにはまってもう自力じゃ抜け出せない。
「だからそろそろ信用してくれると嬉しい」
「信用、してない、わけじゃ…」
「ならもう勝手に泣くな、心臓に悪い」
稜さんの体温に沈むと、涙が引いてゆく。
可愛がるように私を懐に入れて顔中にキスをくれる稜さんに、凝り固まった心がとろとろと溶け出してゆくような感覚がした。そんな自分の単純な恋心に苦笑しながら、稜さんの綺麗な肩甲骨にしがみつく。
「稜さん…」
今は苦しいことの多い恋だけれど、それでもこの腕の中に閉じ込められる瞬間にだけ味わうことの出来る幸福が確かに存在する。もしかしたら、私はその中毒性の高い幸福に溺れているだけなのかもしれない。
恋なんて代物は、一過性の激情かもしれない。
時が経てば廃れるものかもしれない。
それでも、年甲斐もなく夢を見てもいいかな?
「俺は弥生が泣かなきゃ、他は何でもいい」
この恋がこの先も実を結び続けて。
永遠なんてものに昇華する、そんな馬鹿な夢を。
──Extra episode.03
Fin.
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