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でも天敵の稜さんに厳しく、教え子の私には一等甘い宇野さんの言葉に救われてしまう私のほうが本当はずっと狡いのかもしれない。稜さんは私を庇ったことによる咎を受けてアメリカに出向しているのに。
「別に和泉の出向理由なんか今さらいいだろ」
「…そんなに棚に上げられません」
「真面目」
私に掛からないようにと横を向いて煙を吐く宇野さんの手が、わしゃわしゃと犬でも可愛がるように頭を撫でてくる。
相変わらず距離の近い宇野さんの顔が近くでにやりとした。私は乱れた髪を手櫛で整えながら、生意気そうなその顔を見つめていると、不意に背後から声が響く。
「気安く触んじゃねえわ」
こちらもこちらで口の端に煙草をぶら下げて現れた稜さんは、酷く不機嫌そうに眉根を寄せながら宇野さんを睨み付けている。
なんだかこの展開にも最近慣れてきてしまった。
「何お前まさか彼氏面してんの?」
「うっぜえな殺すぞ」
「そんな餓鬼臭ぇ独占欲出すんなら寂しがらせてんじゃねえよ、お前がほったらかしてる間に俺が横から搔っ攫うぜ?」
「ふざけんな、誰がそんなことさせるかよ」
「なに、恋愛の土俵で俺に勝てる気でいんの?」
「試してみるか?」
挑発的な宇野さんの視線を受けた稜さんが低い声を出す。怒気を孕んだそれを、けれど宇野さんは気にする様子もなく鼻で笑い飛ばすのでこちらのほうがハラハラした。
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