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「女心もわかんねえ男に負ける気がしねえな?」
「あ?ならお前はわかんのかよ」
「片桐に聞いてみ?」
急に話を振られて、咄嗟に居住まいを正した。
そして女心云々の話をされると、どちらに軍配が上がるかは明々白々だ。けれどそれを稜さんの前で言おうものなら、余計に機嫌を損ねるのは目に見えている。
「ほら、答えを聞くまでもない」
「…別に片桐はなんも言ってねえだろ」
「負け惜しみは醜いぜ?まあ精々健闘を祈るわ」
じゃあまた後でな、と私にあからさまな目配せを残してから宇野さんは呆気なく去ってゆく。そこに漂う煙草の残り香は稜さんから香るものとは僅かに違う。
その背中を忌々しげに見送る稜さんの横顔に苦笑を漏らした。どこまでも仲の悪いふたりだ。仕事になれば抜群のコンビネーションを発揮するというのに。
「…まじでアイツだけは目の上のたんこぶかよ」
「もう少し仲良くしてくださいよ」
「あれと仲良く出来る要素がどこにあんだよ?」
「なんでそこまで相性悪いんですか?」
「そんなもん俺が聞きてえわ」
テラスに設置されているテーブルの向かいに腰を降ろした稜さんが煙草を噛んでいる。初夏の風が柔らかにその短い髪を撫でるけど、ワックスで固められた髪は動かない。
私の憂鬱なんて蹴散らしてしまいそうに空は青く晴れていた。通り過ぎる飛行機から尾を引く細い雲が覚束なく揺れている。目の前のお弁当が全然減らない。
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