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「今夜はこっち来るだろ?」
「…あ、えっと、行っていいんですか?」
「逆に来ない気でいたわけ?女心のわかんねえ俺も出国する前の日ぐらいはさすがに彼女と一緒に過ごしたいんですが」
「…謝りますから根に持たないで下さい」
「宇野がナンボのもんだよ」
毒づく稜さんから盛大な舌打ちが聞こえてくる。
残念ながら、恋愛における器用さで稜さんは一生宇野さんには敵わないだろう。本人もそれをわかりつつも認められずにいる辺りに男のプライドを感じる。
今週に入って仕事が始まってからはさすがに毎日稜さんの滞在しているホテルに通い詰めるわけにはいかず、私はこの二日間、通常通り寮に帰っていた。
だけど明日の朝の便でまた渡米してしまう稜さんと過ごせるのは今夜が最後だ。明日の朝に早起きを強いられたとしても、今夜は一緒に過ごしたいと思っていた。
「じゃあ仕事終わったら先にホテル行ってて」
「わかりました」
それを伝えに来たんだろう、稜さんは煙草を吸い終えるとすぐにまた仕事に戻って行った。私は冷たくなった卵焼きを無理やり口の中に押し込んで咀嚼した。
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「おかえりなさい」
最終日のおかげか、稜さんの帰宅は早かった。
あくまで普段と比べればだけれど。
ホテルの扉を開けるなり鬱陶しそうにネクタイを緩めている稜さんは、すぐにベッドの上に腰を降ろした。渡米前の最終日だからとお見送りに余念がないプロジェクトメンバーたちに捕まってくたびれたのだろう。
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