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稜さんと離れていた時間はずっと寂寥の中で溺れているようだった。三月の終わりに渡米してからひと月しか経っていないというのに、壊れそうに苦しかった。
「…そんなに泣くなよ、弥生」
「りょうさ、ん、」
行かないで、と今にも縋ってしまいそうだ。
だけど、それだけは決して言ってはいけないとわかっていた。これ以上稜さんを追い詰めるような言葉は口にしたくない。
稜さんがここから去ってしまうのは彼の意志ではないのだ。課された責任を愚直にまっとうする稜さんの姿が眩しくて、そんな彼を好きになったのだから。
弱々しく泣いてばかりじゃいけないとわかっている。この別れは、これから何度も訪れる。慣れることは出来なくても、平気なふりくらいは上手になりたい。
でも、だけど、思ってしまう。
どうしてこんな辛い思いをしなきゃいけないの?
「弥生のこと傷つけてばっかだな、俺は」
「ちが、ちがうの…」
「でもさ、死ぬほど勝手なことはわかってんだけど、それでもごめん、全然お前のこと離してやれそうにない」
懇願のようなその響きに心が震えた。
ねえ、稜さんこそ、そんな傷ついた顔しないで。
彼らしくもなく惑う瞳が所在なさげに揺れるのがあまりに痛々しくて、悲しくて、なのにそんな風に想ってもらえることに少し安堵するなんて酷い女ですよね?
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