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「…そんな、簡単に離されたら、余計泣きます」
「…なら安心して抱き締めてられる」
「稜、さん」
余白のない細い頬に手を添えた。
男の人な割りに色の白い綺麗な肌が手に馴染む。
落ち着きを湛えた黒い瞳に映る私は泣きすぎてお世辞にも可愛いとは言えない。離れている間に思い出してもらうなら、もう少しマシな顔でいたいのに。
「…風邪、引かないで、くださいね」
結局そんなことしか出てこなかった私に稜さんはゆるく笑って、キスで唇を塞ぐ。慈しむように優しく触れられるのが酷くくすぐったくて、なのに愛おしくて。
ぽっかりと口を開けた夜に沈む。
シーツに纏われた身体が柔らかな熱にまみれた。
夏の始まりの雨のように優しい情事のあと、彼の腕の中で微睡む。薄暗い照明だけがぼんやりと灯るそこで、腕枕をしてくれている稜さんが不意に瞼にキスを落とした。
「絶対目ぇ腫れんな、明日も仕事なのに」
「稜さんのせいですよ」
「わかってるよ」
適正に効いた空調のおかげで汗ばんだ肌が乾いてゆく。目元をなぞる稜さんの綺麗な指。この手にまた触れられる日までに、私は何度目を腫らすのだろう?
そんな後ろ向きな思考を振り払うように稜さんの肩にぺたりと頬を寄せた。今日は一等優しくしてくれる稜さんが、まるで子供でもあやすみたいに私の頭を撫でてくれる。
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