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「ちゃんと責任取るよ」
「明日になればもう出勤しない人が?」
「今のはもっと大局的な意味で言ったんだけど」
「大局的?」
稜さんが酷く真摯に私を見つめた。
静寂に染まる部屋にふたりの息遣いだけが響く。
「この出向が終わって帰ってきたら、弥生のこと傷つけた責任は絶対取るから、どこにも行かずに待ってて欲しい」
馬鹿な稜さん。
そんなところばっかり相変わらず真面目なのね。
すぐに責任だなんて言って重責ばかり背負い込むところ、心配だから治してよ。そう言いたかった声が涙に埋もれて言葉を形成しないから、稜さんはまた困っている。
そんなこと言われずとも稜さんの他に行くところなんてあるわけがないのに。残念ながら稜さん以外の選択肢なんて私の手の中にはない。
汗の乾いた彼の綺麗な肩の曲線に、私の涙が滑り落ちてゆく。真っ白なシーツに溶け込みそうな稜さんの白い肌を繋ぎ止めるように、ゴツゴツした体を抱き締める。
「…なんか何言っても泣かれんのな、今日」
「そん、な、不意打ち、ずるい…」
「あのな、見くびんなよ、勢いがなきゃこんなこと言えるわけねえだろ」
何故か居丈高に稜さんが鼻を鳴らす。
そんな彼を見上げて、私は可笑しくなってくる。
情けないことを堂々と言うところも、真面目な顔して腹の底が黒いところも、でも結局愚直で不器用なところも、余すことなく全部愛しくて、もうどうしようもない。
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