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5. 鏡の裏側
応接間の扉を開けると、薄暗い廊下に出た。
明かりを求め、歩いていると、飾り気のない螺旋階段があった。
エイミーが息を細めているのにもかかわらず、ギシギシと容赦なくきしむ階段を上っていくと、広い踊り場についた。
ここには天窓があるだけで、重い空気が漂い、白い埃が浮いていた。そして、頭上から光が差し込んだ時、その光を反射させてキラリと鈍く光る物が目に付いた。
(鏡......)
そこには、オブジェのように立てかけられた、エイミーと同じ位の等身大の鏡があった。
幾つものヒビが入り、四隅は錆びていて、
長い年月を感じさせるものだった。
だが、ただ年季が入っていて古いだけではない。その鏡に映っているエイミーの姿が、秒単位で、ぼやけたりピントが合ったりし、それを繰り返しているのだ。
エイミーは、その不思議な鏡に見入った。
すると、鏡の表面が上の方から下の方へ向かって、ゆっくりと小刻みに波を打ち、エイミーは、何かに肩透かしをくらったような気がした。
周りを見渡したが、特別に何かが起きた訳でもなく、ただ静かな、さっきと同じ時間だけが過ぎていた。
(今の感じは、なんだったのだろう)
エイミーはどうしても鏡が気になった。
すると、さっきまでエイミーをあやふやに映し出していた鏡は、しっかりとピントを合わせていた。
しかし、どうもおかしい。
はっきりとした違いは分からないが、
自分の姿がなんだか見慣れない姿で映るのだ。
エイミーは、髪に付いた埃を払おうと手を上げた。すると手を上げたのは右手なのに、左手が動いているように見える。
左に顔を傾けてみると、右に顔が傾く。
動きが全て逆に見えるのだ。
「もしかして、ここは鏡の中?」
そう、
エイミーは鏡の裏側に来てしまったのだ。
「どうしよう。どうやったらここから出られるの?」
エイミーが元居た場所に戻ろうと、鏡の隅々まで触れたり、叩いたり、体を押し付けたりと、試行錯誤を繰り返していると、今まで天窓から光が差し込んでいた踊り場が、雲が陰ったせいで暗くなった。
その時、鏡に小さな明かりがポツンと映った。エイミーは、一瞬のうちに鳥肌が立ち、物怖じしそうになったが、その明かりを確かめる為に、ゆっくりと後ろを振り返った。
すると、エイミーの目に映ったのは、どこまでもずらっと続く扉だらけの、先の見えない廊下だった。
そして、その廊下の一ヶ所に明かりが灯されていた。そして、また一つ、少し離れた所に明かりが付き、また一つ、今度はかなり離れた所に明かりが付いた。
エイミーは、一番手前の明かりの方へ、たくさんの扉の前を通り過ぎて足音を立てないように歩いて行った。
その小さな明かりの正体は、木製の扉の前に灯された、やわらかいランプだった。
そして、その扉には、数字とアルファベットを組み合わせた番号が刻印されており、しっかりとカギがかけられていた。
エイミーは、ジェントルマンとレディから貰った3つのカギをふと思い出し、ポケットを探って、その存在を確かめた。
そのカギは、さっきまでは変色していたのに、自分が本来は白く美しい光沢を放つ記憶を瞬時に思い出したかのようにシルバーの強い輝きを取り戻していた。
エイミーは3つのカギを手の平に並べてみた。
それらのカギは、どれも違う形をしているが、扉に刻印されている番号と同じような、数字とアルファベットが刻まれており、ランプの付いている扉の番号と一致するものが1つあった。
「このカギだ」
エイミーは、恐る恐る扉をノックしてみた。
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