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9. EXIT
大きく重たい扉を押し開け、外に出ると、
キラキラと七色に輝く太陽の光がエイミーを包み込んだ。
眩しくて、目が開けられない。
手探りで辺りを確認しようと手を伸ばすと、
柔らかく、しなやかな毛並みに手が触れた。
(さっきのイヌだ。捕まえた!)
するとそのイヌは、
ペロペロとエイミーの顔中を舐め始めた。
(くすぐったいよぉ......
ウインクの次はキス?)
暖かい日差しと、柔らかい感触に包まれたエイミーは、だんだん眠くなってきた。
「ワン!」
(ワン? 確かにイヌの顔をしていたけど、
あれはかぶり物でしょ。
中にパパみたいな男の人が入っている事ぐらい、私だって本当は知っているわ)
と、エイミーが夢心地で自分なりに解釈していると、また、
「ワン!」
と、耳元で吠えられた。
(あれ? この声、ラッキーの声に似てる)
もしかしてと、眠くて重い瞼を開けてみると、エイミーが抱きしめていたのは、紛れも無く、大好きなラッキーだった。
そして、
―トントントン―
エイミーが返事をする間もなく、扉から入って来たのは、エプロン姿のママだった。
(ママとラッキー?)
エイミーは光のいたずらかと疑った。
「Happy Birthday! お寝坊エイミー。グランパもグランマも、もういらして、お待ちかねよ。早く着替えて降りていらっしゃい!」
カーテンの隙間からは、明るい光が部屋の中に細く差し込んでいた。
そして、エイミーが枕元の時計を見ると、
9時30分を差している。
エイミーは今日が、楽しみにしていた12歳の誕生日である事を思い出し、急いでベッドから飛び降りた。
そして、お気に入りの赤いワンピースに着替えて、みんなの待っているリビングに走った。
リビングには、グランパとグランマがソファに座ってハーブティーを飲んでいた。
エイミーは笑顔で駆け寄った。
「大きくなったね。エイミー」
と、グランパ。
「まぁ、エイミー!ママに似て、すっかり綺麗になったわね」
と、グランマ。
エイミーは、少し照れながら、「ありがとう」と言って、二人に抱きつき、頬にキスをした。
「さあ、今日のエイミーの席はここよ」
ママに案内されたのは、特別な日にだけ使うレースのテーブルクロスが敷かれ、テーブルフラワーには、エイミーの大好きな色とりどりのコスモスとキャンドルがコーディネートされたテーブルだった。
「わー、ステキ!」
そこへ、パパが木の箱を持って入ってきた。
「おっ、起きたかい。エイミー」
「おはよう、パパ。それはなぁに?」
「これかい、これはパパからのお誕生日プレゼントだよ。覚えているかい? このデザインはエイミーがしたものだよ」
そう言って、パパは鍵付きの箱をくれた。
その箱には、ブルーローズの花とエイミーのイニシャルが彫られていた。
「これを作るのにパパ、2週間もかかったのよ」
と、笑いながらママ。
「パパ、ありがとう。もちろん覚えているわ。いつか作ってねって、絵に書いてパパに渡しておいたのよね」
「さぁ、エイミー、これはグランパからだよ」
そう言って、グランパは金色のリボンで結ばれた箱を取り出した。
「開けてもいい?」
「もちろんだよ。エイミー」
ワクワクしながらリボンを解くと、中にはガラスのケースに入った、オルゴールが入っていた。蓋を開けると、羽を広げた2羽の白鳥が、「白鳥の湖」の音色に合わせて向かい合うようにクルクルと回り始めた。
「グランパ、ありがとう。とても嬉しいわ」
弁を弾く一つ一つの響きが、エイミーの心の奥に眠っていた、ジェントルマンとレディを想い起こさせ、あの二人が奏でていたのは、
この曲だったのかも......と、
エイミーはオルゴールの音色に聞き入った。
「エイミー、今度はグランマからのプレゼントよ。でも開ける前に中身が、ばれてしまうわね」
グランマがくれたのは、
きれいな水色の傘だった。
「良かったら、開いてみてちょうだい」
エイミーは、水色の傘を開いてみた。
「かわいい!」
その傘の内側にはフワフワしたヒツジのイラストが描かれており、水色の傘自体が青空になっていた。エイミーは、傘をクルクル回してみた。
「見て! ヒツジたちが走り回っているみたい! グランマ、ありがとう」
「良かったわね、エイミー。この傘なら雨の日でも楽しくなっちゃうわね」
と、ママ。
「じゃあ、最後にママからプレゼントよ」
ママがくれたプレゼントは、
袋の口が赤いリボンでかわいく結ばれていた。
「何かしら?」
エイミーが袋から取り出したのは、シルバーのスパンコールの付いた、ワンピースとお揃いの髪飾りだった。
「今度あるピアノのリトルコンサートで着たらどうかと思って」
「ありがとう、ママ。絶対に着るわ」
「ところで、コンサートでは何の曲を弾くか決めたのかい?」
とパパに聞かれ、エイミーは、
「ええ、決めたわ。英雄ポロネーズよ!」
と答えた。
あの曲だったら、自信を持って弾けるような気がしたのだ。
すると、玄関の方からラッキーのエイミーを呼ぶ声が聞こえた。
誰か来たのかと思い、走って玄関まで行くと、ラッキーがドアの方に向かって吠え、シッポを振っている。
「ラッキー、誰か来たの?」
エイミーは、ラッキーを抱きかかえてドアを開けた。しかし、外には誰も居なかった。
気のせいだったのかと思い、ドアを閉めかけた時、足元にキラリと光るものが落ちていた。
それは、見る角度によっては、優しいベリーピンクや、深いグランブルーに変わる不思議な光だった。
手に取ろうと手を伸ばすと、その光はパッと消えてしまった。
すると、少し先にまた光るものが見え、
近づくとまた消える。
その光は、エイミーを案内するように、
手入れの行き届いた広い庭の方へ点々と続いていた。
エイミーがその不思議な光を追うと、誕生日に姫リンゴの木を記念に植えようと、昨日パパと一緒に掘った穴の近くで途切れた。
「やあ、エイミー。元気かい?」
フェンスの向こう側から声を掛けてきたのは、いつも手紙を配達してくれる郵便屋さんだった。
「ええ。もちろん元気よ。郵便屋さんは?」
「ありがとう。元気だよ。今日は、エイミー宛てに小包が届いているよ。サインをして貰えるかな」
そう言って、エイミーがサインをすると郵便屋さんは手を振って行ってしまった。
「私宛ての小包だなんて、誰からかしら?」
しかし、その小包には送り主の名が無かった。
エイミーが、その小包を開けてみると、
《Happy Birthday! Dear Eimy》
とだけ書かれた小さなカードと、
一冊の分厚い本が入っていた。
深緑の表紙には、本の題名が無く、中を開いてみると、手触りの良い、何も書かれていないオフホワイト色の紙が綴られていた。
(もしかして......
さっきの不思議な夢を書く為の本なのかも)
エイミーは、鮮明に記憶に残っている体験を一つずつ想い浮べ、その本を大切に胸に抱えた。
そして、素敵なプレゼントを贈ってくれた誰かに、とびっきりのウインクをした。
「エイミー!」
キッチンから、ママのエイミーを呼ぶ声と共に、甘い、いい香りがしてきた。
エイミーにはすぐに分かった。
外はカリッとしていて、中はフワフワのスポンジ。中央には、トローリと口の中でとろけるクーベルチョコが入った、ママのお得意のショコラクラッシックケーキが焼き上がったのだ。
エイミーは澄み渡った大空を見上げた。
すると、さわやかな風が吹き、エイミーのつやつやと光る髪を優しく揺らした。
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