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「どこで飲んでたんですか?」
「日本のサラリーマンなら新橋だろとか言って新橋で、貴志もいたぜ」
「貴志くんも?」
そっか、考えたら元々同じ部署だもんね。
瞬さんを慕っていた様子の貴志くんの姿を思い出して、きっと楽しい飲み会だったんだろうなと微笑ましい気持ちになった。
「つぅかお前、貴志に俺とのこと喋ったろ」
「え?」
「すっげえ煽られた」
今さら思い出したのか急に怖い顔になった瞬さんに、確かに色々相談してしまっていた私は、苦笑を滲ませながら視線を逸らす。
「香坂のこと泣かすんなら俺に譲って下さいとか言われたんだけど?」
「…貴志くんの前では泣いてません」
「重要なのそこじゃねぇよ」
治安の悪い物騒な目がじろりと私を睨む。
さっきまでの上機嫌な表情なら多少は愛嬌だってあったのに、そんな顔をしていると、相変わらず妙な迫力があった。
「アイツお前に惚れてんだから考えろよ」
「…もう終わってると思います」
「は?んなわけねぇだろ、あわよくば掠め取ってやろうと思ってるわ」
舌打ちしながら脱ぎ捨てていたジャケットの胸ポケットから煙草を取り出して、苛立ちまぎれに煙を吐き出す。
その横顔はまるで、拗ねた子供みたいで。
「…不安なのはお前だけじゃねえんだよ」
聞き逃すかと思うくらいの小さな声。
彼らしくもなく弱々しいそれに、思わずぽかんとしてしまう。そんな私を忌々しげに見つめ、ガシガシと乱暴に自分の頭を掻いた瞬さんに、強引に引き寄せられた。
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