1506人が本棚に入れています
本棚に追加
「でも案外いいな、こういうの」
「こういうの?」
首を傾げれば、今度は額に唇が落ちてくる。
屈託のない瞬さんの声が笑った。
「帰ってきたら葉月がいてさ、こんな風にくだらないことだらだら喋って、多分俺、これからこれしに日本帰ってくるわ」
特別な意味なんてどこにもなさそうに、私が一番欲しい言葉を、こんな風にふとした瞬間にくれる。
女心なんて何もわからない唐変木のくせに、大事なところだけは絶対に外さなくて、狡くて最低なのに、好きで好きでほんとに参る。
ねえ、今すごいこと言ってるの、わかってます?
それ、貴方の帰ってくる理由が私って意味だよ。
どうせ何も考えてないんでしょう?
「…今そんな赤面する要素あった?」
意味がわからないと言いたげに首をひねる瞬さんに、こういうところが彼がモテてきた要素なのかな?なんて思ったら、なんだか無性に腹が立ってきて。
動物のマーキングみたいに、
その剥き出しの綺麗な肩に噛み付いてやった。
𓂃𓂃𓍯𓈒𓏸𓂂𓐍◌ 𓂅𓈒𓏸𓐍
「最終日かあー…」
今日は瞬さんの最終出社日だ。
何故かオフィスではなく喫煙所でしみじみし始めた彼は、かなり厳しさの和らいだ弥生の風に短い髪を揺らした。
「正直全然そんな感じしねえな」
「引継ぎ無事に終わってよかったですね」
最初のコメントを投稿しよう!