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Another episode.
『…阿保かよ、俺は』
いい歳して何やってんだ、と自嘲する。
口の端にぶら下げた煙草を噛みながら鈍色をした空に煙を吐き出した。胸糞悪い二日酔いは、数分前に引き寄せた女の甘い香りで余計にくらくらする。
香坂葉月は出来た部下だった。
利発で機転も利き、多少生意気だが逞しい。
不可解な人事異動の通達を受けた去年の春からこの約一年間を共に戦った戦友は、ふと気付けば時折ただの女に見え、そうなると後はもう坂道を転げ落ちるだけだった。
明確にいつから香坂葉月という存在が護るべき大事な部下と、ただの惚れた女の間を行き来し始めたのかは覚えていない。
それでも誰よりも純粋で真っすぐに生きている香坂葉月という人間が、俺にとって一等大切で特別な存在であることはこの先何があっても揺らぐことはないだろう。
でもだから、余計に迷った。
こんな不出来な男にはあまりに不釣り合いで。
『あれ、進藤さん?』
喫煙所のベンチに踏ん反り返って煙草を吹かしていた俺の背後から、明朗快活な声が響くのにだらりと頭を後ろに倒して振り返る。
『なんだよ、貴志か』
『え、こんなとこで何してんすか!』
『何って煙草吸ってんだろ』
何言ってんだコイツ、と眉を顰めた。
しかし貴志はそんな俺の表情など気に留める様子もなく詰め寄ってくるので、その勢いに軽く引きながらまた煙を吐いた。
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