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『あの人事ですよ!なんすかあれ!』 『ああ、そのことな…』 新規プロジェクトの解体と共に告げられた俺の東南アジア赴任は、早速昨日全社に広報された情報のため、この工場に勤める人間のほとんどが把握している。 だがそれが鵜飼常務の画策により立ち消えになるという情報はまだ未発表だ。一応人事広報を待つべきか、なんて緩慢に脳を回す間にも貴志の勢いは止まらない。 『香坂のこと泣かせないでくださいよ!』 『…お前、東南アジアに飛ばされる俺より日本に残れる香坂の心配かよ』 まじで潔いな、と思わず苦笑した。 そして昨日見た泣き顔の記憶が脳裏にぶり返す。 いつも自分の心配は二の次で、他人のことにばかり気を取られている健気でひたむきな部下を守ることが出来れば、それで十分だった。 でもそんなちっぽけな願いすら叶えられないこの矮小な手に、誰よりも幸せであって欲しいものを乗せるのはあまりに心許なくて、決意が決まり切らずにいる。 どうせ逃げられやしねえのに。 本当に柄にもねえな、と短い煙草をすり潰した。 そんな情けない煩悩を抱えていたあの日から気付けばもう数か月が過ぎ、新天地でバタバタと雑務に追われるうちに約束のGWが目の前に迫っていた。 煩雑でめまぐるしい日々は充実感に溢れていて楽しかった。試行錯誤を繰り返しながら手探りで進むのは大変なことも多かったが、目標があれば苦ではない。
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