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暦が五月を迎えるころにはこの広大な北の大地にも遅い春の訪れを感じた。ようやく帰国の目途が立った俺は、友人たちに揶揄われながら空港へ向かう。 そうして数か月ぶりに降り立った日本はもう春を越えて初夏の装いで、燦々と降り注ぐ日差しが眩しい。渡露してからはうんざりするほど雪ばかり見ていたから。 青々とした空に胸が躍る。 人波を縫うようにキャリーケースを転がした。 行き交う人が半袖を着ている。 搭乗ゲートをくぐり抜けた俺は、久しぶりに目にすることの出来る恋人の姿を探していると、その端できょろきょろと視線を彷徨わせている葉月の姿を見つけた。 意志の強そうな大きく切れ長の瞳も、さらさらと触り心地の良い長い髪も、俺が揶揄うたびに赤く染まる柔らかな頬も、何ひとつ変わらずにそこにあることに酷く安堵する。 本当にどこまでも柄じゃねえな。 でも仕方ねえだろ、こっちは心底惚れてんだわ。 「葉月」 目の前まで来てようやく、どこか不安げに辺りを彷徨っていたその焦げ茶色をした綺麗な瞳の中に俺が映り込む。 瞬きのその刹那、葉月は酷く嬉しそうに笑った。 「瞬さん!」 「見つけんの遅ぇよ、ただいま」 「おかえりなさい!」 快活な笑顔も何も変わっていない。 その小さな手が俺に触れるのを躊躇うように服の裾を握り込むのを見つけて、苦笑しながらその華奢な体を抱き寄せる。
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