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「…なんか悲しい理由ですね」
「大国の政治が絡めば残酷なもんだよ」
「確かに宇宙開発でアメリカとロシアが世界で台頭したのも、そもそもは冷戦下での軍事競争のようなものでしたもんね」
「宇宙開発にとってその技術が兵器に応用される可能性を孕んでるってのは確かな事実だからな」
助手席の葉月が悲しげに俯いた。
それでも俺たちに出来るのは、努力だけだ。
自分たちが懸命に生み出した技術がどこでどんな風に利用されるかなんてことまで、俺たち技術者はこの手で定める権利を持っていない。
それでも自分たちの生み出したものが悪ではなく善のために行使されると信じて、技術者や研究者という仕事を担う人間達は日夜ひたむきな努力を続けている。
「…瞬さんはいつも前しか見ないんですね」
「よそ見する余裕がないだけだ」
高速道路の代り映えしない風景を見るともなく見ながら、葉月の髪をくしゃりと撫でた。ちょうど夕暮れに差し掛かった今の時間は西日が酷く眩しかった。
視界の端で葉月は柔く微笑む。
FMラジオは陽気な音楽を垂れ流していた。
GW真っ只中なおかげで混んだ高速を降りられた頃には、東京を出てから三時間が経っていた。
それから適当なスーパーに寄り道して今晩軽く食べる食材を調達した俺と葉月は、そこからさらに二十分ほど車を走らせたところでようやく別荘に辿り着けた。
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