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長い直毛の髪の先には焼肉のタレがべったりとこびりついて異臭を放っている。それでなくとも鉄板から立ち上がる煙のおかげで全身焼肉臭いというのに。
「百年の恋も冷める匂いしてんな、お前」
「自分だって焼肉臭いくせに」
俺の肩口に顔を埋めた葉月は「瞬さんも私と変わりませんよ」とふてぶてしい顔をしている。どこまで負けず嫌いなんだコイツ、と呆れながら毛先を離した。
「この後どうする?」
「明日からの計画とか立てませんか?」
「確かに、めちゃくちゃ無計画で来たもんな」
「瞬さんが連絡返さないから」
「まじで連絡返してたら今ここにいねえから」
「はいはい」
拗ねた顔で葉月がビールを飲んでいる。
この連休にこうして帰国するためにギリギリのスケジュールで仕事を詰め込んだ俺は、葉月の連絡を一時的に無視するという尊い犠牲の上に今ここに立っている。
「男の人はすぐ仕事を言い訳に使うってコラムでよく読むの、本当だったんですね」
「変なもん読むな」
「失礼な、私のバイブルですよ」
「もっと可愛いもんバイブルにしろよ」
今年のGW休暇は四月の末から有休を重ねれば最大十連休が取得可能らしい。だが残念ながらロシアの暦にそれはまるで関係ないので、俺は死ぬほど無理してなんとか後半七日間の予定をこじあけた。
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