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夜の澄んだ空気の向こう側には満天の星が瞬いていた。濃紺のカンバスに散りばめられた星々の輝きは、ここに届くまでに一体どんな旅をしてきたのだろう?
夜はまだ少し肌寒いからと寝室から持ってきたブランケットにふたりでくるまりながら、ベランダのテラスに設置されているベンチに座って夜空を見上げた。
北斗七星の中に組み込まれたβとαを結んだ線を五倍分ほど伸ばしたところに、小さく暗い星を見つけられる。北極星だ。
「迷子の夜に北極星を探せって言うでしょう?」
「知識がなきゃ全然探せねえけどな」
「そうですよね、私もそれ、最初に聞いた時に無茶なこと言うなあって思って」
この二十一世紀に生きてて、星なんかを頼りに迷子を解決しようとする人間はまずいないだろう。
しかしかの有名なクフ王のピラミッドは北極星の位置を頼りに建設されたと聞いたことがある。そして当時の北極星は、今俺たちが頼りにしているポラリスとはまた別の星だ。
「牛飼い座のアークトゥルスに、おとめ座のスピカに、しし座のデネボラ」
「春の大三角形は見つかりましたか」
「もちろんですよ、私、宇宙物理専攻ですよ?」
「俺は天文学者の息子ですけど」
「あ、ねえ、瞬さんのお父様って進藤慧先生?」
「お、知ってんの?」
万年准教授の父親は、その通り進藤慧だ。
俺が学生の頃は北海道にある大学の研究室に在籍していたが、四年前の春から東京の大学に転籍した父は、出世しない割りに論文だけは精力的に発表している。
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