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「よくよく考えてみたら進藤先生の苗字って進藤だよな?と思って、この前読み返してみたら、謎の確信を得まして」
「何だよ、その謎の確信って」
「この明晰で鋭利な筆致、まるきり親子だなと」
「ビビるほど嬉しくねえな」
これは褒められてるのか、貶されてるのか?
もちろん俺も父親の論文はこれまで何本も読んだことはあるが、自分の文体と似ているなんて特に意識したこともない。
「似てますよ、理路整然と端的で、他人が異論を唱えることを許さない圧を感じます」
「それは完全に悪口だろ」
「それだけ抜け目がないって意味ですよ」
「まじで口達者な女だな」
ああ言えばこう言うを体現している。
そんな葉月は望遠鏡から顔を離して俺の方にもたれ掛かってくるので、風が吹き込んでしまわないようにとブランケットで包むついでに後ろから抱き締めた。
「ロシアだと今は別の夜空が見えるんですよね」
「最近空なんか見上げる暇もねえけどな」
「そんなに忙しいですか?」
「事業の立ち上げなんか忙しくてナンボだろ」
「また無茶してませんか?」
「してねえよ」
有難いことに向こうには守るものがない。
この身ひとつで仲間と一緒にやりたい放題すればいいだけなので、気楽なもんだ。組織の中で一応部下として香坂がいた頃に比べれば、責任という観点での負荷が軽い。
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