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「スペースデブリ?」
そんな部門あったけ?と同期の貴志康生が食堂のパスタをフォークに巻きつけながら首を傾げた。
私はその向かいで食堂の硬い椅子に背中を沈めながら頷いた。お昼時の食堂は騒がしい。奥の吹き抜けからは卯月の陽光がゆらゆらと波打つように差し込んでいる。
「新規事業の立ち上げだって」
「てことは栄転?」
「まさか」
深いため息とともに眉間を揉む。
そんな私を、貴志くんは不思議そうに見つめた。
いつだって春は、出会いと別れの季節だ。
国内トップシェアを誇る重工業メーカー『帝和重工』の開発・生産部門では、今期に入り大規模な組織改変が行われた。
大幅な人員配置の変更に、影ではリストラの断行までが行われたと噂されるその再編政策は、神奈川県相模原市にあるこの巨大な工場全体を不穏な空気で覆っていた。
それは私や貴志くんの所属する宇宙産業開発事業部でももちろん同様だ。そしてこれが今後長らく続く私の憂鬱の幕開けでもあった。
そんな憂鬱に包まれた四月。
突如、事業部内に発足したチームがある。
事故や故障により制御不能となった人工衛星やロケットの切り離しの際に生じた破片などを総じて『スペースデブリ』と呼ぶ。
つまりこれを日本語に直訳すると宇宙ゴミだ。
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