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突然何事だ?と進藤さんと一瞬顔を合わせてから立ち上がる。すると奥井さんは急に降って沸いたような課題を提示してきて、満足げな笑みを浮かべた。
「除去システムのですか?」
「ああ、必要経費と期間の算出を頼みたい」
「無理ですね」
バッサリと言い切った進藤さんをちらりと横目で見て、肝を冷やす。
上司に対する物言いにしては、些か剣呑だ。
「我々にはノウハウがありません」
「新規事業の立ち上げなんてものは常にノウハウを学ぶところからのスタートでは?」
しかし奥井さんもまたそれを意に介さない。
面白そうに右側の眉だけを器用に持ち上げた彼が楽しげに進藤さんを窺う。その嫌味な視線を受け止める進藤さんの表情には何の感情も浮かんでいないようだった。
確かに新規事業をスタートさせるときの第一歩は常に、未開の地を手探りで進んでゆくものだ。
だからと言って門外漢の私と進藤さんの二名だけではどう考えても人材不足だ。外部の専門家に指示を仰ぐなりしなければ限界がある。そこを進藤さんも指摘した。
「手段に関する部分は進藤に一任するので好きにしてくれて構わない。これだけ大規模な開発プロジェクトだ、さすがに俺も社内だけで完結が可能とは考えてないさ」
「専門家も自分たちで探せということですね?」
「それがお前の仕事だろう?」
「わかりました、それでこの件の納期は?」
「一年だ」
頼んだよ、と含みのある声色で言って、進藤さんの肩を気安く叩いた奥井さんは、すぐにオフィスを出て行く。
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