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遥は大学を卒業して去年の春から鉄鋼メーカーに就職し、そこで営業職をしている。女の子が営業なんて大変じゃないの?!と大慌てだったのは勿論私だけだ。
最近は業界柄、再編の噂なんかも聞こえてくるのだけど、それでも遥は「なるようにしかならないでしょ?」と動揺を見せることもなく淡々としている。
「座右の銘は万事塞翁が馬、なので」
「なんかもうお姉ちゃんは感心してるよ…」
「楓に感心されても別に嬉しくないから早く冷蔵庫閉めて、電気代もったいない」
「私が払うんだから別にいいでしょ!」
褒めてあげたのに何よ!とペットボトルのお茶だけ取り出した私は冷蔵庫の扉を勢いよく閉める。
そしてそのまま直接ペットボトルに口を付けようとしたら、「行儀悪いし汚いから!」と思い切り叱られてもう立つ瀬がない。
「美味しい!」
さすが我が妹、と実に勝手な褒め言葉を宣う。
そんな姉を呆れたように見つめる遥はお茶をグラスに注ぐと、「今日の服白なんだからこぼさないでよ」とそれをテーブルに置いた。
「ほんと楓も多少は自炊しなよ」
「だって仕事忙しいんだよ、毎日帰り遅いし」
「休日があるでしょ?作り置きとかしておけば節約にもなるしさ」
「ええ、休みの日まで働きたくないよ…?」
「楓は絶対もう結婚出来ない」
遥とは対照的に、私は料理が得意じゃない。
別に壊滅的なものが出来上がるわけじゃないんだけど、毎回微妙な味の料理が出来上がるので多分センスがないんだろう。
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