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そして配属先がクラシックレーベルと聞かされた当時は相当拍子抜けしたらしいけど、甲斐くんは持ち前の明るさと素直で人に可愛がられる性質をフル活用して、我が社の営業部で好成績を収めている。
全国規模でチェーン展開をしている焼き鳥屋さんに入った私と甲斐くんは、お互いに好きなものをタッチパネルで頼む。
金曜日の夜はさすがに店内が賑やかだ。注文から数分と待たずに大学生らしき店員さんが元気よく飲み物を運んできてくれたので、私たちはひとまず乾杯した。
「朝倉さんが十四歳の若さで国際コンクール優勝した時ね、奇跡だと思ったの」
「優勝したのが?」
「そうじゃなくて、彼の演奏が」
通っていたバイオリン教室の先生のツテで入手することの出来たCDで、私は初めて朝倉陽という少年の紡ぐ音楽と出会った。
機械から流れ出すその音は、当時まだ中学二年生だった少年の演奏とは思えなかった。聴く者を酔わせるその演奏技術は、最早熟練と呼べる域に達していた。
周囲を圧倒するほどの超絶技巧は多方面から絶賛され、その澄み渡った煌めく音色は、呆気ないほど容易く聴衆の心を掴んだ。
どうすればあんな風に弾けるんだろう?
純粋に憧れて、そしてほんの少し妬ましかった。
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