Music.01:物語

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「すみません、大丈夫です、失礼します」 「え、待って待って!お姉さんすごい美人だね?よかったら一緒に飲まない?」 「飲みません、ごめんなさい帰るので…」 「えー」 奢るからさあ、お願い一杯だけ付き合って!と意外としつこく食い下がられて、あまり免疫のない私は戸惑ってしまう。 彼から漂う香水とアルコールの混じった香りがすごく苦手で、思わず顔が引き攣った。無遠慮な手に腕を掴まれてぎょっとすると、意外と不慣れなの?と囁かれる。 どうしよう、ちょっと怖いかもしれない…。 背筋がざわざわと騒いだ。 掴まれた腕をやんわりと振り解きながら、私はひとまず近くにあったお店に逃げ込むことにした。 店の中に友達がいるんです!という嘘でなんとか誤魔化して、地下に続く階段を下りる。そこには黒い革張りの扉が佇んでいて、その重厚な雰囲気に狼狽した。 「高そう、なお店…」 お金を払うのはいいけれど、でも無理だ。 想像した店内の風景にどう考えても自分が不釣り合いで、こんなお店にひとりで入れるような勇気は持ち合わせていない。 なので咄嗟に引き返そうとしたら、さっきの男の人がなかなか店に入らない私を不審そうに上から見下ろしていた。 戻るに戻れなくなってしまった私は扉の前でひとり立ち往生するばかりだ。他のお客さんが来たら迷惑になるのに、と焦燥ばかりが募って途方に暮れた。
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