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「おや、お客さんかな?」
そんな時、不意にその扉が開いた。
店の中から現れた白髪混じりの男の人が優しげに笑って、思わず言葉に詰まる私を、どうぞどうぞと気さくに店の中に招く。
「あ、あの、すみません、私やっぱり…」
「お酒と音楽は好きかな?」
薄暗い間接照明に照らされた店内は、木製の家具で揃えられた隠れ家みたいな雰囲気は意外と庶民的だった。
奥には大きなグランドピアノが置かれたステージがあり、その周りを取り囲む丸いテーブル席にはお客さんの姿が散見される。金曜の夜だけあって賑やかだ。
「良かったら一杯ご馳走するよ」
「そんな、ちゃんとお代はお支払いします…」
「そう気を遣わないでさ、こんな気軽な店だし楽しんでいってくれると僕も嬉しい」
「…ありがとうございます」
カウンターの席に通されて、飲み物のメニューを眺めるけど、何が何だかよくわからない。
あまりアルコール耐性のない私は普段そんなにお酒を飲まない。だからこんなお店に置かれているお酒のメニューなんて読解すら危うくて、早々に白旗を上げた。
「…あの、オススメはありますか?」
「お酒はあまり強くない?」
「そうですね、あとあんまりお酒の味がするものも得意じゃなくて…」
「なら飲みやすい弱めのものを何か用意するよ、嫌いな果物はないかな?」
「それは大丈夫です」
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