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パリッとした白いシャツに黒いベストを合わせたその人は、数種類の液体を銀色のシェイカーに入れ、ゆったりした動作でそれを振り始めた。
彼の右胸についた金色のネームプレートには、店長の役職の横に西崎と綴られている。賑やかな店内の空気を掻い潜るようにたゆたう音色はジャズの旋律だ。
私は今さら考えなしに朝倉さんを追いかけてここまで迷い込んでしまったことを思い出して、でも少しほっとしていた。
もし朝倉さんを見つけられたとしても、なんて声を掛けたらいいのかわからなくて、結局何も出来なかったはずだから。
茶目っ気たっぷりにウインクを飛ばしてきた西崎店長は、華奢なカクテルグラスに注がれたお酒を私の目の前に差し出した。
「はい、西崎特製ブレンド」
「特製ですか?」
「もう一度作れって言われても作れない上に、美味しいかどうかも怪しいけどね」
「いただきます」
お礼と共にグラスを受け取った私は、爽やかなオレンジ色の液体を口に含む。
「おいしい!」
これはオレンジジュースだろうか?
さっぱりとした柑橘系の甘さが口の中に広がってとても美味しい。お酒というよりジュースみたいな味がして、思わず渇いた喉にぐびぐび流し込みたくなってしまう。
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