Music.01:物語

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Music.01:物語

すべての音楽には物語がある。 幾重にも重なった糸をひとつひとつ丁寧に紐解いてゆくことから、その音に込められた音楽家たちの物語を巡る旅は始まる。 時代の流れと共にバロックから古典、そしてロマン派へと受け継がれてゆくクラシックという音楽の向かう先は常に自由だった。 ローマ時代から発展を遂げた音楽がルネサンスという芸術の転換期を迎え、王侯貴族のためのものから、古典派の時代には産業革命の煽りを受けて市民階級まで広がった。 王侯貴族に召使も同然として音楽家が扱われた時代から、誰にも気を遣うことなく自分の表現したい音楽を自由に紡ぐことの出来る時代が到来したことで音楽にも変革が起こる。 音楽家の情動が、感性が、人生が音の中に宿る。 それは燦然と光り輝いていた。 時代の流れに揉まれながら、現在まで脈々と残り続けてきた当時の息吹が私の耳を愛でてくれる。 愛を語り、祖国を思う抒情的なメロディーはまるで一編の長編小説のように、ここではないどこか別の世界に私を連れ出してくれた。 𓂃𓂃𓍯𓈒𓏸𓂂𓐍◌ 𓂅𓈒𓏸𓐍 日本に拠点を置く外資系レコード会社の中では最大手である『アースミュージック』は、昨今多様化が進む様々な音楽ジャンルを網羅している。 その巨大な組織の中でも、制作局クラシック部門にディレクターとして籍を置く私は、クラシック音楽に携わる演奏家の方々を支援する仕事に従事していた。
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