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縁が灰色を帯びた瞳。
さらさらと靡く色素が薄い琥珀の髪。
透き通るような白い肌。
どこか異国の血が入っているんだろうか?
独特の透明な存在感を纏った彼は、けれどその優麗な容姿とは裏腹に、どこかこちらを威嚇するように灰色の瞳を眇めている。
「よろしくお願いします」
「俺の演奏を録音してCDにするだけでしょ?適当にやってくれればいいよ」
酷く棘のある、攻撃的な言葉と視線。
警戒心を隠そうともしないその天才バイオリニストは、すげなく言って私の手を離すなり、ふいと背を向けて去って行った。
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「初顔合わせ、どうだった?」
同期の甲斐隆広が無邪気な笑顔で尋ねてくるのに苦笑しながら、オフィスフロアの横に設置されたコーヒーメーカーのボタンを押した。
「逃げられちゃった」
「逃げられた?なんで?だってあの朝倉陽からのご指名だったんだろ?」
「ご指名は私を名指ししたんじゃなくて《若くて美人でワガママ聞いてくれる人》だったから、お気に召されなかったのかも」
「成宮がダメならもう弊社は全滅ですなあ」
「そんなことないでしょ」
私より若い子も綺麗な子も、たくさんいる。
それなのに今回私が朝倉さんの担当に選ばれた理由は、最後の『ワガママを聞いてくれる人』の部分だと思っている。
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