Music.01:物語

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自慢じゃないけど私は仕事仕事でプライベートはほとんど皆無な生活を送っていて、尚且つそれを苦に思わないタイプだ。 担当させていただいているアーティストさんの気まぐれに振り回されるのも慣れっこだし、与えられた要望には全力で応えたいとやかましいくらい躍起になる。 そういうところが元来気難しいと有名な朝倉さんにもぴったりだと思われて、今回局長から彼の担当に任命されたのだと予想していた。 「帰国したてで疲れてたんだと信じたい」 「まあ大丈夫だろ、成宮の美貌にかかればこの世の男はみんなころっと落ちるよ」 「甲斐くん、その慰めはさすがに無理がある」 「うん、今のは言い過ぎた」 にっこりと人懐こい笑顔で甲斐くんが笑うので、どうにも憎めなくて顔をしかめた。 「彼の演奏、実際に聞いたことある?」 「生で聞いたことはないな、欧州のレーベルで制作されたCDでなら聞いたけど」 「もちろんそれも素晴らしいんだけど、実際に生で聞くのとCDとじゃ、やっぱり雲泥の差だよ」 「成宮が言うならきっとそうだね」 「耳は良いからね」 私は人差し指で右耳を指して見せた。 幼い頃からバイオリンをしていた名残りで、普通の人よりかは多少耳が良いという自負を私は勝手に持っている。
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