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昔は私も演奏家になりたくて、コンクールに向けて毎日ひたすら練習に明け暮れるバイオリン漬けの日々を送っていたけれど。
自分の才能に限界を感じてバイオリニストの夢を諦めた時、それならばせめて才能のある人の音楽をより多くの人の下へ届ける手伝いがしたいと、今の道を選んだ。
音楽は耳を傾けようとする誰かの元に届いて初めて、輝き始めると思うから。
どの音色もすべて、誰かに愛されてこそ光輝く。
𓂃𓂃𓍯𓈒𓏸𓂂𓐍◌ 𓂅𓈒𓏸𓐍
「申し訳ありません、本日朝倉は体調不良で打ち合わせには顔を出せず…」
会議室に申し訳なさそうな声が響いた。
向かいの席に座る大層美しいその女性は、欧州のプロダクションに所属する彼の専属マネージャーを務める枝光瀬奈だ。
「帰国したばかりですもんね」
「空港で一度朝倉とは顔を合わせてますよね?」
「ええ、ほんの一瞬ですが」
「次の打ち合わせまでには必ず治させますので」
「そんなご無理なさらず」
お大事になさって下さいね、と気遣う言葉を口にしながら、だがそんな私の内心では、めらめらと静かな闘志が燃えていた。
なるほど、いい度胸じゃないですか、朝倉さん。
私の仕事を一言で言ってしまえば、担当している演奏家を包括的にプロデュースすることだ。
担う領域はレーベルやアーティストによって様々だが、今回の朝倉さんとの契約でいくなら、彼が日本で発売するディスコグラフィーの製作のみがミッションになる。
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