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「ならリサイタルじゃなくてコンサートだね」
「なんかちょっと違う気するけど」
「え、違う?」
「まあでも概ねの意味は合ってる」
ライブハウスを出て、賑やかな街を歩く。
飲食店や夜のお店が立ち並ぶ渋谷の通りは、今が夜だというのを忘れてしまいそうになるくらいにネオンが光り輝いていた。
せっかくなので夜ご飯を一緒に食べて帰ろうかという話になった私たちは、通りに面した飲食店をあれこれ物色する。
魚より肉の気分、と甲斐くんが言うので、最も混雑が予想される夕食時を遠に過ぎた界隈のお店の様子を伺いながら、きょろきょろと辺りに視線を走らせた。
「成宮さん?」
不意に声を掛けられて、ふらりと振り返った。
そこには何故か店長の姿があって。
「え、店長!何されてるんですか?」
「少しね、買い出しを」
「そっか、考えたらお店この近くですもんね!」
「成宮さんは今日はデートかい?」
「あはは、違いますよ」
揶揄わないでください、と笑う私を愉快気に眺める店長は、両手にビニール袋を下げている。背後から現れた甲斐くんに「誰?」と不思議そうに尋ねられて、返答に窮した。
「…えっと、あの、よく行くお店の店長さん」
「こんばんは」
「どうも、初めまして」
にこやかに微笑んで見せた店長に、持ち前の社交性を発揮した甲斐くんが気さくに応える。
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