Music.01:物語

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「朝倉は関節も人より柔らかいそうで、それで難しい曲もあれだけのクオリティで弾けるのではと専門家の方が仰っていて、私自身はバイオリンを弾くわけではないので詳しくはわからないんですけれど…」 「大切だと思います、関節の柔らかさも」 それこそ、その超絶技巧がゆえに悪魔に魂を売り渡したとすら言われた鬼才パガニーニも、マルファン症候群という病気のせいで常人よりも異様なほどに指が長く関節が柔らかかったという説もあるほどだ。 現在活躍するバイオリニストの中で、世界随一の技巧派と名高い彼の演奏技術は、その恵まれた体質にも支えられていたのかもしれない。 「日本にはどれくらい滞在を?」 「これを機に五大都市でのリサイタルと交響楽団との共演も予定していますので、途中で欧州にも戻ったりはしますが、この一年間は主に日本で活動をと」 「日本一周なんて大変ですね」 「昨年のアメリカ横断に比べれば全然マシです」 「わあ、そうですよね…!」 昨年の朝倉さんは欧州を離れ、NYを拠点としながらアメリカ各地でリサイタルを行っている。 それに比べれば日本を上から下まで縦断することくらい屁でもないだろう。話の規模が違うなあと感心する私は、ファイルから一枚の用紙を取り出した。
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