1429人が本棚に入れています
本棚に追加
白い煙がふわりと宙を舞う。
それがまるで、彼の心まで隠してしまうようで。
どこか申し訳なさそうに、不器用な手が私の頭をくしゃりと撫でた。縦横無尽にバイオリンを操る器用な彼の手が、こんな風に戸惑う様を初めて見た。
「あさ、くらさん…?」
「そんな風に諦めることなかったのに、夢」
ごめんね、と囁いて、朝倉さんが背を向けた。
白いシャツを着たその背中にはち切れんばかりの苦悩が滲んでいて、私まで苦しい。才能という輝きを神から与えられた代償に背負う影は一体どれほどのものだろう?
そんなの私には想像もつかなくて。
自分の矮小さが、あまりにも歯痒くて悲しい。
「陽はね、ああ見えて自信がないんだ」
カウンター越しに私たちの会話を聞いていた店長が、どこか寂しげな様子でそう言った。
私は俯きがちだった顔をふらりと上げる。薄暗い店内の間接照明に照らされた店長は、優しげな面差しに曖昧な表情を浮かべた。
「自分のバイオリンがどれほど特別なものなのかを、陽自身が信じ切れていない」
「どうして…」
私の問いに、店長は力無く微笑む。
優しいカントリーミュージックの旋律が店の中を柔らかに揺蕩っていた。春の木漏れ日の中に反射する小さな微粒子がきらきらと輝くように、音が鳴る。
最初のコメントを投稿しよう!