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Music.05:逢引
撮影スタジオに眩しいフラッシュが瞬く。
撮影用の黄緑色をしたシートの真ん中に置かれた椅子に座った朝倉さんが、照れ臭そうにレンズを見つめている。
「すっごい素敵です、朝倉さん!」
「うるさい黙ってて」
褒め称える私を、朝倉さんが睨み付ける。
今日は、ディスコグラフィーのジャケットに使う写真の撮影だった。
衣装の真っ白いシャツに細身の黒いネクタイを締めた彼は、そのシンプルな装いが逆に素材の良さを際立たせていた。
前回までのパガニーニの黒装束を模したとされる黒を基調とした重厚なデザインから一新した今回は、清潔な白が眩しいシャープで洗練されたデザインだ。
新進気鋭のバイオリニストという感じの格好良いそれは私のイチ押しでもあったので、採用された時はかなり嬉しかった。
「何回しても慣れない、ほんと嫌だ」
「なんで撮影苦手なんですか?」
「だってこんな大勢の前ですました顔させられるとかなんの拷問なの?」
「朝倉さん、格好良いのにもったいない」
「とにかくこれで終わりにして」
最低限は撮れたでしょ?とぞんざいに呟いた朝倉さんは、逃げるようにしてぴゅーっとスタジオを出て行ってしまう。
珍しく狼狽えたその背中を枝光さんと苦笑いで見送った。大きな花柄のフレアスカートがおしゃれな枝光さんは、今日も素敵だ。
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