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「せっかく美形なのにもったいないですね」
「ほんと変なところが照れ屋で」
「朝倉さんらしいと言えばらしいですが…」
一応仕事と割り切っているのか、嫌々ながらもカメラマンさんの指示通りにポージングをしている朝倉さんは、ちょっと可愛かった。
そんな風に枝光さんと話し込んでいると、撮影スタジオの出入り口からちょこんと顔を覗かせた朝倉さんが、こちらを窺っている。
「…瀬奈、帰んないの?」
「私はこれから名古屋に飛んでリサイタルの打ち合わせなの、一人で帰れるかしら?」
「帰れるよ、馬鹿にしないでくれる?」
「あらそう」
寄り道しないでちゃんと帰るのよ、と子供のように枝光さんに頭を撫でられた朝倉さんは、不満げに不貞腐れている。
「…餓鬼扱いしすぎじゃない?」
「だって子供みたいなものでしょ、陽は」
「もうすぐ二十六だよ」
「見た目ばっかり老けちゃって」
「それはお互い様」
ふふっ、と綻ぶように枝光さんが笑う。
見つめ合うふたりは親しげに微笑み合いながらも健全な距離を保っていて、抑制の効いた大人な雰囲気がある。
素敵だなあ、と密かに憧れた。
ふたりは仕事上の良きパートナーという感じもするけれど、今みたいになんとなくそれ以上の親しさを感じる時もある。
演奏家と、そのマネージャー。
誰よりも固い信頼で結ばれたふたりだろう。
距離が近すぎるぶん障害も多いだろうけど、それを差し引いてもあまりあるものが、きっと恋心というものだ。
──なぁんて。
知った風な口叩ける経験もないんだけれど。
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