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突然の事態に大混乱な私をよそに、目の前でずるずるとコーヒーを吸い込む朝倉さんは飄々と朗らかに笑っている。
「楽しみだね、可愛くしてきた成宮さん」
「普段適当ですみませんね…!」
「何怒ってるの?」
気まぐれな天才はあざとく首を傾げる。
そしてわざと砂糖を溶かした甘い声で囁くのだ。
「俺らの初デートだね?」
その手には引っ掛かりませんからね、と一生懸命平静を装ったのだけど、勝ち誇った彼の顔を見るに、どうやら顔の赤面を堪えられてはいなかったらしい。
𓂃𓂃𓍯𓈒𓏸𓂂𓐍◌ 𓂅𓈒𓏸𓐍
「ねえ、デートって何着てったらいいの?」
初心者すぎてまったく想像もつかない私は、廊下で偶然会った甲斐くんを捕まえて、藪から棒な質問を投げかけた。
「は?急に何の話?」
「デート!甲斐くんならしたことあるでしょ?」
「そりゃあるけど、どこ行くの?」
「それが行き先は教えてもらえなくて…」
「は?」
あからさまに怪訝な顔をされた。
だって、私も教えてもらえなかったんだもん。
あの後も必死で食い下がったけど、朝倉さんはわざとらしく微笑むばかりで結局肝心なことは何も教えてくれなかった。
「デートに着ていく服なんかわかんないよ…」
「誰とデートなんかすんの?」
「別にデートするわけでもなくてですね…」
「なんだよそれ」
意味わかんね、と甲斐くんは冷ややかに呟いた。
それに同意しながら苦笑する。
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