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実際デートなんて口から出まかせな朝倉さんの気まぐれに付き合うだけなんだけど、そんな気まぐれを私に向けてくれること自体が進歩だもの、頑張らなくっちゃ。
「とりあえず行けそうなら買い物行ってくる」
「だから誰と行くんだよ?」
「秘密!」
引き留めてごめんね、と仕事に戻ろうとしたら腕を掴まれた。きょとんとして振り返れば、甲斐くんがいつもの柔和な表情とは違う、怖い顔をしている。
「え、甲斐くんなんか怒ってる…?」
「…成宮ってさ、まじで俺に興味ないんだな?」
「え?」
興味ないってどういう意味?
廊下を行き交う他の社員たちが不審そうに私たちを見ている。私は動揺しながら痛いくらいに腕を掴む甲斐くんを見上げた。
「あの、ねえ、甲斐くん…?」
「ごめん、デートなら清楚な感じのワンピースでも着てけば無難じゃない?」
「え、うん、でも…」
そう言ったきり甲斐くんが私の腕を離した。
そのままこちらも見ずに廊下を歩いて行ってしまう彼の背中を茫然と見送りながら、私は微かに痛む腕を無意識に触った。
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その日の夜、なんとか仕事を早めに終わらせて駆け込んだ服屋さんで、甲斐くんに言われた通りのワンピースを見繕ってもらう。
その間に、彼の言葉を頭の中で何度も反芻した。
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