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𓂃𓂃𓍯𓈒𓏸𓂂𓐍◌ 𓂅𓈒𓏸𓐍
「成宮さんて、こう見えて美人さんだよね」
それは褒めてるんですか?
カフェで言われた通りの待ち合わせ場所に、指定の時間ちょうどに現れた朝倉さんは、そんなことを言ってくる。
普段はカジュアルなジーンズ姿がほとんどなのに対して、彼も今日は黒のシャツに黒のスラックスを合わせて、革靴も黒だ。ラフに捲られた袖口から高そうなシルバーの腕時計が覗いている。
普段は特にセットをされた様子もなくさらさら揺れている髪も、今日はきちんと整えられて、真ん中で分けられている前髪の隙間からおでこが覗いている。
それに私はこんな憎まれ口を叩くのが精一杯だ。
ちょっと格好良すぎて狡くない?
「褒めてるじゃん」
「こう見えてってどう見えてるんですか」
「そんな格好してるといつもより際立つなって意味でしょ?何が不満なの」
面倒な人だね、と冷ややかな視線で見下ろされた私は、何でそんな風に言われなきゃいけないのと思いながらも小さく謝った。
待ち合わせ場所だった銀座駅の改札口から地上に出ると、外は青々とした晴天だ。都会のビルの谷間に吹く夏風が、彼の着ているシャツをふわりと膨らませた。
「それで、今日はどちらに?」
「映画好き?」
映画?これはまた本当にデートみたいな質問がきたなと驚きつつ、正直に答える。
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