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3
谷と僕は週末のほとんどを一緒に過ごした。終焉までのタイムリミットが近づくごとに、その頻度は増していった。僕の両親は、僕の好きなようにさせてくれた。息子が毎週末どこで寝泊まりをしているか詮索はしてこなかった。ただ、最後の日だけは家族一緒に。という無言の圧だけはいつも感じていた。
(お父さん。お母さん。ごめんなさい。僕はもう心に決めてるんだ)
それを伝えるのがとても辛い。でも、罪悪感で圧し潰されても、僕は迷わず谷を選ぶだろう。
僕たちがゲイであることは、僕たちが隠さず恋人関係をオープンにしているから、学校では皆承知の事実だ。僕たちを蔑む者はいない。本当におかしなくらいいない。でももし、世界は滅亡せず永遠に続くと分かったら、こんな夢のような世界はもう二度と訪れないのかもしれない。僕はそう思うと、いつも虚しい気持ちになってしまう。
谷とは、谷の祖母の家で何度も体を繋げた。初めはうまくできなかったけど、回数を重ねるうちに僕たちは、一緒に果てることができるようになった。その快楽はまさに小さな死だ。その度に僕たちは、まるで天国にいるような幸福をいつも味わった。
最後の日の朝、僕はこっそり家を出た。ベランダを伝い地面に降りると、裸足のまま谷の家まで自転車を漕いだ。水平線から顔を出し始めた太陽は光り輝いていて、今日も猛暑だと僕に教えてくれる。
谷はまだベッドで寝ていた。僕はベッドに潜り込むと谷の傍に横たわった。
「ん? 麻生……」
谷は僕に気づくと、目を擦りながら僕の頬を優しく撫でた。
「……両親と最後の別れ、ちゃんとできたか?」
苦しそうに谷はそう尋ねた。
「ううん。でも、手紙を置いてきたよ。今までありがとうって。人生の最後は、愛する人と迎えます。ごめんなさい。って書いた」
「そっか……」
僕たちは横になったまま見つめ合うと、どちらからともなく抱き合った。一つに溶け合うほどぐちゃぐちゃになって抱き合うと、二人とも涙が止めどなく溢れた。
「怖いよ、谷、僕を離さないで!」
僕は谷にしがみつきながらそう叫んだ。
「大丈夫だよ。絶対に離さない。俺たちはずっと一緒だ!」
もうすぐ隕石が世界中に降り注ぐ。その威力は凄まじく、一瞬で僕たち生物を跡形もなく散り散りにする。
僕たちはずっとひとつの塊のように抱き合っていた。どのくらい経った頃だろう。窓から差し込む見たこともない眩しい光に、僕たちはついにのみ込まれた……。
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