力の片鱗

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 その頃、フェイバル王国は大騒ぎをしていた。秘密裏にウォンターグ帝国へ攻める計画が進んでいたが、その視察の最中にケイリッド家当主が討ち取られたという報告があったのだ。  フェイバル王国の国王は絶大な信頼を寄せていた英雄が討ち取られたことに言葉を無くし、ただただ立ち尽くしていた。臣下たちは信じられないと、報告してきた者を叱責した。  しかし、首から上がない状態の遺体を見せられると、臣下たちは頭を抱え、意気消沈し、皆々が悲しみに膝から崩れ落ちた。  フェイバル王国は、おそらくこちらの動きが帝国側にバレていて、先手を打たれたと大混乱に陥っており、もはやウォンターグ帝国と戦うことを諦めていた。  フェイバル王は早急に和平の文書を伝令大使に持たせ、ケイリッド家を使って奇襲をかけようとしていたことへの謝罪と、幾許かの物資を融通する旨を、ウォンターグ帝国の皇帝陛下に伝えるよう指示した。  ケイリッド家の当主が討ち取られたことは、それほどフェイバル王国を揺るがす大きな事態となっていたのだ。 ◇◇◇ ◇◇◇ 「何っ⁉︎ それは誠かっ⁉︎ 」  ウォンターグ帝国にはそれは朗報となって皇帝陛下に伝えられた。ベイティから、かの憎きケイリッド家当主を討ち取ったという報告を受けたのだ。  そして時を同じくして、フェイバル王国の伝令大使から、ウォンターグ帝国に非常に有利な和平の申し入れが伝えられた。  皇帝陛下は喜びで踊り出しそうな心を抑えて、和平を申し入れる旨の伝書を大使に持たせた。大使が出ていった後の豪奢な部屋には、皇帝と臣下、そしてベイティの三人が残った。 「改めて大義であった、ベイティ=ブラッドよ。 まさかフェイバル王国の陰謀に事前に気づき、さらにはあの憎きケイリッド家当主の首まで討ち取ってくるとはな。 まさにあっぱれよ」  ウォンターグ皇帝は、満足げに伸びきっている白い髭を触る。ベイティは胸に手を当て、一歩下がってお辞儀をした。 「光栄にございます」 「してベイティよ。 どうやってケイリッド家当主を討ち取ったのだ?」  ベイティは一瞬考えるそぶりを見せた。そして、「実は……」と、出来損ないの長男レイ=ブラッドが魔の森で首を拾ってきたと伝えた。皇帝は眉間に皺を寄せ、その摩訶不思議な話を咀嚼している。 「息子は自分が討ち取ったと言っていますが、息子にそんな力はありません。 おそらく何者かに、もしくは魔の森の魔物にケイリッド家の当主は殺され、それを見つけて持ち帰ってきただけだと思います」 「ふむ……。 レアルよ、其方はどう考える?」  今まで皇帝の後ろで控えていた臣下のレアル=コンラッドが、口を開く。 「正直信じがたい話です、皇帝陛下。 真相は本人に聞くほかないかと思われます」 「い、いえ。 息子の戯言に陛下の時間を頂戴するわけにはいきません」 「よいよい。 私は今非常に気分が良いのだ。 二日後、息子のレイ=ブラッドをこの場に連れてくるが良い。そこで話を聞こうではないか」  こうして二日後、レイが皇帝陛下に謁見するのが決定したのだった。
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