招来術師たちの会話

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 エミリオはすぐに旅行鞄からクーウェルコルト全十四領が描かれた地図を取り出した。鉛筆の蓋を外して削り具合を確かめながら、鼻歌でも歌いそうな声で問いかける。 「次はどこです? クルディア領? アルニア領? それともルートポート領ですか?」 「エトラ領です」  エミリオは拍子抜けした顔をトビアに向けた。 「ずいぶんと近場じゃないですか」 「あなたには当面の間、トーヴァ連峰付近にいてもらいたいのです」  トビアは椅子を立ってソファへと近づいた。  エミリオの側まで来ると、低く簡潔な言葉で伝える。 「”白のサリエート”の居場所が分かりましたので」 「……ああ、なるほど」  一拍おいて、エミリオが感慨深く頷いた。 「たしかにそれは大事(おおごと)ですね。……そっか、見つかったんですか」  エミリオの手が近くに来た黒猫へと伸びる。  二度ゆっくりとその毛並みを撫でた後で、エミリオは穏やかな笑みを浮かべてトビアを見上げた。 「やっと来ましたね、俺たちが汚名を返上する機会が」  顔色一つ変えないエミリオを見てトビアは小さく息を吐いた。 「安心しました。あなたにまで自棄(やけ)になられてはさすがに面倒でしたので」  その言葉を聞いたエミリオがああと納得の顔をした。 「だから今日は皆さん妙に暗い顔をされてたんですね」 「ですが、今はまだ我々も時期を図っている途中です」  トビアはエミリオの広げた地図に視線を移す。その一点を指差して言った。 「あなたにはまず、エトラ領ヒースに向かってもらいます」  そこはトーヴァ連峰最南のふもと。フィリエル領、メルイーシャ領とも近接する山あいの小さな村だった。 「数日前から、先に向かった術師と連絡が取れなくなっています。彼の安否を確かめ、手遅れのようならあなたが代わりに仕事をこなしてください」 「了解しました」  エミリオは鉛筆で印を入れると地図を鞄にしまって立ち上がった。  黒猫と共に執務室を立ち去ろうとする背中にトビアが声をかける。 「道中、また救世主の噂を聞いたら……」 「そちらの件も別に報告書を用意しますね」  振り返ったエミリオは、その顔にほんの少しの茶目っ気を混ぜて首をかしげた。 「できれば司祭様たちより先に接触して、可能であれば対処をしたい。……ですよね、トビア様?」
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