金色の目の子ども

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 幸いここ数日は雨も降っておらず、日の下にあった枝はよく乾いていた。女がそれらを拾い集めて川へと戻るのにそう時間はかからなかった。  女が戻った時、ラウエルは火の側へと移動していた。荷物や篭手も近くへ運ばれ、子どもが着ていた服は岩場に広げて乾かされていた。  子どもはラウエルの数少ない私物である薄手の外套(がいとう)に包まれ、抱きかかえられたまま瞳を閉ざしている。 「様子はどうじゃ、ラウエル?」 「……まだ、目を覚まさないのだ」 「そうか」  女はラウエルの隣に腰を下ろすと、拾ってきた枝を手早く敷きつめた。火はすぐに枝へと移り、ようやく焚き火らしい音を鳴らして燃え始める。  一息ついた女はラウエルを見やってふと首をかしげた。 「何かあったか、ラウエル?」  ラウエルから答えが返ってくるまでには少しの間があった。 「……何故、そんなことを聞くのだ?」 「いや、普段とは様子が違うような気がしてのう」 「君も、ごくまれに鋭いことがあるものなのだ」 「褒めとらんじゃろ、それ。お主、ワシが戻ってきてから一度もこちらの顔を見ておらんし」  その言葉に、ラウエルがゆっくりと顔を上げた。  女は軽く目を見張る。  どんな時でも我関せずといった無表情を浮かべている男の顔に、わずかだが困惑と動揺の色が浮かんでいたのだ。 「この、子どもなのだが……」 「この子がどうかしたのか?」 「引きあげた時から妙な気配だと思っていたのだが。その、……私も初めて見るものなので、困惑しているのだ」  ラウエルの言葉は曖昧(あいまい)で歯切れが悪い。 「その子が一体何なのじゃ、何かあったのか?」  尋ねる声が近かったのか、ラウエルの腕に抱かれた子どもがきゅっと眉根を寄せた。意識が戻りかけているようだった。  ラウエルは小さく息を吐くと女に告げた。 「……これは、招来獣(しょうらいじゅう)、だと思われるのだ」  女がぽかんと口を開けた。 「な、なんじゃとぉ……?」 「そう、なのだ。なのだが……」  ラウエルが腕の中にいる子どもを見下ろす。  乾いた布にくるまれて日向と火に当たり、その顔色はだいぶ血色を取り戻していた。  女が子どもの頬にそっと手を当てた。 「ん……」  触れた肌は温かく、ラウエルにはない緩やかな鼓動の響きも感じられる。信じられないといった顔をする女に、ラウエルは難しそうな表情で頷く。 「これには、核がないのだ」 「四精石(しせいせき)で動いてはおらぬということじゃな。では人間じゃろう?」 「しかし招来獣の気配がするのだ。これの体に巡っているのは君と同じく赤い血で、半分は招来獣なのだが、残りの半分は人間のようなのだ」 「ど、どういうことじゃ?」  頭上で交わされる会話に、子どもが小さくうなった。 「この子どもは、人間と招来獣の、……混血だと思われるのだ」  ラウエルが言いにくそうに告げると同時に、子どもがぱちりと目を開いた。  子どもの両目は、野生の獣にも似た鮮やかな金色をしていた。
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